ソフトウェア技術者を襲うバーンアウトとボーアウト

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バーンアウト(burnout,燃え尽き症候群)とは、今まで普通に仕事をしていた人が、急に、あたかも「燃え尽きたように」意欲を失い、働かなくケースのことです。
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以下で自分にバーンアウトの兆候があるか、どうか診断できます。
http://needtec.sakura.ne.jp/mentaltest/burnout.html

逆に、ボーアウト(Boreout)とは仕事に退屈しきっている状態を指します。能力以下の仕事しか与えられず、仕事に関心を失い、職に就いていながら、いわばニートのような状況にいることであり「社内ニート症候群」ともいえます。

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以下で自分にボーアウトの兆候があるか、どうか診断できます。
http://needtec.sakura.ne.jp/mentaltest/boreout.html

バーンアウトとボーアウトは対極の関係にあります。
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仕事量が一定の範囲を超えた場合、バーンアウトの発生リスクが生じ、仕事量が一定の範囲を下回った場合にボーアウトの発生リスクが生じると考えられます。

バーンアウトとボーアウトは対局の関係でいながら密接な関係にあるともいえます。
どんな職場でも、みなで力を合わせてある決まった量の仕事を仕上げなければならないです。しかし、全員が同じように働くわけではないのです。
熱心さ、優秀さ、上昇志向の強さなどの原因は色々であるにせよ、一部の人間が多く働く傾向にあり、その結果、彼らは同僚の仕事を奪うことになります。彼らはしだいにバーンアウトに苦しみ始め、残りのメンバーは仕事が少なくなる問題を抱えます。
能力以下の仕事しか与えられない人達は退屈し始め、仕事に関心を失います。その結果できた自由時間は、他の事に使われます。ネットサーフィンやゲーム、読書などです。
やがて、裏ワザを使って忙しそうに見せかけるようになり、あまり仕事がまわってこないようにする。すると、働きすぎの同僚が彼らがやらない分の仕事を片付け、その結果として、両者ともストレスにさらされる。こうして悪循環が発生して、まわり続けます。

この結果は、バーンアウトにせよ、ボーアウトにせよ離職、転職等の人的リソースの損失になります。

バーンアウト

この項ではバーンアウトについて掘り下げてみましょう。
バーンアウトという概念を, 初めて学術論文でとりあげたのはフロイデンバーガー(Freudenberger,1974)です。
彼は 保健施設に勤務していた間,数多くの同僚が精神的, 身体的異常を訴えるのを目撃しました。同僚たちは一年余りの間に徐々にあたかもエネルギーが枯渇していくように、仕事に対する意欲や関心を失ってくのです。彼は、同僚が陥った状態を表現するのに「ドラッグ常用者の状態」を意味するスラングであったバーンアウトを用いました。

彼はバーンアウトを次のように定義しています。
「辞書的な意味で言えば、バーンアウトという言葉は、エネルギー、力、あるいは資源を使い果たした結果、衰え、疲れ果て消耗してしまったことを意味する。(中略)実際のところ、バーンアウトは、人によりその症状も程度も異なる」

その後、数多くの研究者の関心をひき、バーンアウトの概念は急速に広がっていきました。
そのなかで、バーンアウトという状態をいかに測定するかという取組が始まります。
バーンアウトという状態を測定するための物差しをつくる、いわゆる尺度化にとりくんだのが、マスラックを中心としたグループで彼らのマスラック・バーンアウト・インベントリー(MBI:Maslach Burnout Inventory)でした。 MBI は, バーンアウトを以下の 3つの症状から定義しています。

バーンアウトの3つの症状

情緒的消耗感

「仕事を通じて情緒的に力を出し尽くして消耗してしまった状態」と定義します.
この情緒的消耗感がバーンアウトの主症状で、残りの2つはこの副産物です。

サービスのやり取りをする関係のなかで、相手の気持ちを思いやり、勝手放題にふるまう相手をうけいれ、問題を解決していくことを求められることが少なくありません。つまり情緒的なエネルギーを必要とされており、それがバーンアウトへのリスクを高めています。 自らの役割に誠実な人ほど, 日々接するクライアントと, このような感情のやりとりを繰り返していく中で, 疲弊し,消耗していきます。 これが, バーンアウトと呼ばれている過程です。

脱人格化

「サービスの受け手に対する無情で非人間的な対応」と定義します。

バーンアウトとは情緒的資源を使い尽くしてしまった状態です。そのような状態に陥ってしまった人が、さらなる消耗を防ぐために情緒的資源の節約を行います。クライアントや同僚との間に距離を置き、かれらとの関係を仕事上の関係として割り切り、サービスのやり取りを客観視することで自らを守ろうとします。

個人的達成感

「ヒューマン・サービスの職務にかかわる有能感、達成感」と定義されています
バーンアウトにいたる人は、それ以前までに高いレベルのサービスを提供し続けた人だけに、前後の落差はおおきく、とりわけ本人にとって質の低下は明白です。成果の急激な落ち込みと、自己評価の低下は個人的達成感の低下と名付けられています。

バーンアウトの発生の要因

バーンアウトの発生の要因となるものはなんでしょうか?
個人要因と環境要因と分けて考えることができます。

どのようなタイプの人間がバーンアウトしやすいのでしょうか?
プライスとマーフィーによればバーンアウトは「理想に燃え使命感にあふれれた人を襲う病」と述べています。
ひたむきで自我関与が高く、そのような人は自らの性格ゆえにバーンアウトしやすいと述べています。ひたむきに働く人は、あまりに多くの仕事をなしとげようとし、できない場合に、できないことを深く悩みがちです。
際限なく繰り返される相手からの要求と慢性的な人材不足、そのような環境のなかで、ひたむきで自我関与の高い人間が極度の消耗を経て、バーンアウトに陥ることは想像に難くありません。

環境的要因にはどのようなものがあるでしょうか?
次のようなものが考えられます。
・過重負担
・自律性
・人間関係

過重負担を考える場合、一般的に長時間勤務や肉体にたいする重い負担の作業を思い浮かびます。もちろんこれらが、過重な労働負担であることは間違いありません。ただ、勤務時間、作業量といった量的な意味でなく質的な意味での負担も考えなければいけません。多くの人間と接する必要がある場合や、作業的に神経を使うものは質的な意味で負担が大きいものと考えられます。

自律性とは自らの意思で仕事のスケジュールや方法を決定できる程度を示します。一般に医師や研究職では自律性が高く、事務職などの定型的な業務をこなす職では自律性が低いものとされます。
バーンアウトが頻発している職種は社会的な位置づけが不明瞭で、他の職種からの干渉も多く、専門職としての認知度が希薄である職種に多いことが知られています。
看護師にはバーンアウトが多く、専門職として自立性が高い医師ではバーンアウトが問題にされないのは自律性がバーンアウトと密接にかかわっていると考えられるからです。
ソフトウェア技術者は一見、自律性が高いように見えますが、その作業において多くの制約が課せられます。たとえば、派遣のプログラマなどには自律性があるとはいえないでしょう。

人間関係もまたバーンアウトに関係する要因です。上司や同僚との人間関係が良好なほど個人的達成感を得やすく、脱人格化を起こしにくくなります。逆に、関係がうまくいかないほど、情緒的消耗を経験しやすいことになります。

これらの要因をみていると、バーンアウトの予防についていくつか考えることができます。
これについては後で述べます。

ボーアウト

この項ではボーアウトについて掘り下げてみましょう。
ボーアウトは次の3つから成り立っています。

・能力以下の仕事しかさせてもらえない―「自分はもっと有能だ」という不満
・無関心―仕事との一体感の欠如
・退屈―やる気のなさと無力感

これらは互いに関連していて、相互作用があります。絶えず能力以下の仕事しかさせられてなければ、当然関心を失います。

ボーアウトになると働いているふりをします。
書類でカムフラージュしたり、本来より多くの作業時間を申告して、自由時間を謳歌したりします。

ボーアウトには、なりにくい職業があります。たとえば、農業や工場ではボーアウトは生じにくいです。
気が乗らないという理由で稲を植えなかったり、畑を耕さないということは聞いたことがありません。もちろん、怠け者はいます。しかし、、仕事を済ませたフリはできません。
工場でも同じです。機械が常にうごいて、車が組み立てられていく。仕事をしているふりなんてできやしません。つまり、目にみえる、測量できる具体的な結果が必要なのです。働いているふりなんてしたらすぐにばれて首になります。
そういう意味ではソフトウェア技術者は、働いているフリはしやすいといえるでしょう。仕様書を読んでいるのと、Yahooニュースを読んでいる違いに気づける管理職はいません。

さて、ボーアウトの歴史的なりたちを考えてみましょう。
かってマルクスは「疎外された労働」という表現をしました。マルクスによると工場労働者は製品から疎外されているといいます。彼らは製造過程の全体を見渡すことも、その製品に係ることもできないからです。
ボーアウトを観察すると、疎外は重要な意味を持ちます。
分業化、細分化がすすんでくると、自分の仕事と最終的にできあがったものとの間に、関連性を見出すことができなくなります。このことにより自身の仕事に対する関心が薄れても已む得ないといえます。

バーンアウト・ボーアウトを予防するためのチーム運営

バーンアウト、ボーアウトを予防するためのチーム運営について考えてみましょう。
バーンアウト、ボーアウトは仕事の量が適切に割り当てられていない場合に、発生すると考えられます。

作業量の調整をどのように行うべきでしょうか?
「朝会」は有効な手段の一つだと思います。
各人が毎朝、「昨日行ったこと、今日行うこと、問題点」を報告するのです。予定外に増えた作業や、負荷はここで調整することが可能です。逆に、予定外に早く終わった場合も同じことがいえるでしょう。

この朝会は、「達成感」を満たす場にも使用できます。
たとえば、作業者が仕事を終えたと報告した場合、賞賛し、感謝の意をつたえればいいのです。自己評価が低くなるのを防ぐことが可能であると思います。
強制的に毎朝コミュニケーションをさせることになるので、燃え尽き症候群の症状の「脱人格化」による同僚に対する関心の薄れを予防できます。

疎外された労働を防ぐにはどうしたらいいでしょうか?
これは、チームリーダが語るしかありません。
わが社の経営理念はXXXで、そのために製品Xを作成し、今回のリリースではどういう機能が必要で、そのために貴方には~をしてもらいたいと筋道をつけて語るのです。
多くのチームリーダーが行ってしまう、「言われたことだけやればいい」的な言動は、作業者と作業に距離を作るものです。
あとあまりおおっぴらには言えませんが、作業をやらせる場合に、この技術を覚えておくと転職に有利だという言説も作業に対する関心を持たせる上で有効です。
なんにせよ、自身の行う作業が自分自身に強く関連づくように仕向ける必要があります。

自律性というのは難しい問題です。
自身の判断がチーム運営に反映されるチャンスがなければいけません。
定期的に作業者にヒアリングをしたり、「ふりかえり」とよばれるチーム運営に関する会議を定期的に開くといいでしょう。
「ふりかえり」とはチーム運営において、続けておいた方が良い活動、問題点、挑戦したい事を話し合いで決め実施していくことです。
以下にその方法が詳しく記述してあります。
http://agile.esm.co.jp/scrum/retrospective.html

これにより、自身の判断が全体に反映されるチャンスが出てきて、自律性が高まることが期待できます。

チームを運営するときは、実際のプロダクトに関係する「必須」な作業以外にも、「できたら行う」という作業を用意しておくといいでしょう。
たとえば、それは、画面のテストの自動化だったり、プロジェクトで使用するツールだったりします。
これらの作業をRedmineのチケットなり、Tracのチケットとして記録しておき、余力が出た人間が行うようにしておくのです。
自分が選択して作業を行うなら、自律性もありますし、調整作業としても使用できます。

このように、バーンアウトとボーアウトを防ぐチーム運営方法を考えてみました。
ただし、重要なのは、ここであげた個別具体例ではありません。
これは、実際の自分の組織の中で、どのように行うか考えるヒントにすぎないのです。

まとめ

ソフトウェア技術者が陥りやすい症状としての、バーンアウトとボーアウトについて説明をしました。
バーンアウトとボーアウトは逆の位置にいながら、たがいに強い関連があります。

バーンアウト、ボーアウトは最終的に人的リソースを失う厄介な問題ではあります。
しかし、その性質を把握することにより、完全に防ぐのは無理でも抑制することは可能です。

ここではそのきっかけを紹介しました。

参考

バーンアウトの心理学
http://www.amazon.co.jp/dp/4781910696

ボーアウト 社内ニート症候群
http://www.amazon.co.jp/dp/4062149222

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